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テーブルには庶民向けの娯楽雑誌が山と積み上げられ、そのいくつかは乱雑に開かれ投げ出されていた。全ての雑誌の表紙を飾っているのは二人の人物。 慈愛の姫とも呼ばれているブリタニア帝国第三皇女ユーフェミア･リ･ブリタニアと、その騎士となった日本国首相の嫡子・枢木スザク。 雑誌の大半は日本のもので、ブリタニアの歴史上唯一の外国人騎士就任と、大々的に取り上げられていた。中にはブリタニアに膝をついた事に批判的な意見もあったが、ブリタニアと日本の良好な関係を示したものだと、好意的な意見が大半を占めていた。何より映画の俳優と言っても遜色のない麗しい男女が皇女と騎士なのだ。彼らが身に纏う衣装もきらびやかで美しく、まるで物語から抜け出してきたような二人の姿に、多くの者が心動かし、憧れと羨望の眼差しを向けていた。 更にはスザクが世界で唯一の第7世代KMFランスロットのパイロットであり、彼以外にはその機体は乗りこなせないとさえいわれ、更には適性検査ではオールSというあり得ない数値まで叩きだした事が知られれば、自然とスザクの評価は上がって行った。 「くだらないな」 何冊かざっと目を通しただけで飽きたのか、手にしていた雑誌をテーブルの上に放おったのは、黒髪にアメジストの瞳を持つ枢木スザクの元主であった。 四阿に用意されたお茶の席に不似合いなそれらの雑誌は、全てマリアンヌが用意した物だった。息子の反応に眉を寄せたマリアンヌは、自分が手にしていた雑誌をテーブルに置いた。 「下らないとは何ですか。スザク君は表に出れば、これだけ人目を引きつけるカリスマを持っていたという事でしょう？」 「カリスマね。童顔男がお飾りの姫君と並んでいる姿が珍しいだけでしょう」 既に冷めた紅茶を口に含みながら言われた言葉に、感情は見られなかった。 「お母様、このお二人を皇族の・・・いえ、ブリタニアのイメージアップに使いましょう」 真剣に雑誌に目を通していたナナリーは、柔らかく目を細めて言った。 「イメージアップ？ユーフェミアとスザク君を？」 「はい。見てください、お二人が並んでいる姿を。よくお似合いですし、お二人とも物腰が柔らかいので、印象も評判もとてもいいのです。今までのブリタニアは、弱者を虐げる強者という、強く、そして怖いイメージが根付いています。お二人をイメージキャラクターとする事で、それらのマイナスイメージを払しょくできるかもしれません」 弱肉強食とは真逆の主従。それは、この二人を今後ブリタニアの道具として使用しましょうという提案だった。確かにこの二人が表に出れば、外交も含めブリタニアのイメージは変えられるかもしれない。 「成程な、お前にしてはまともな事を考えたな、ナナリー。役立たずのお飾り皇女には勿体ない慈愛の姫という二つ名が付いているから、それを利用しない手はない。しかも騎士は異国の人間。ブリタニアの騎士制度では、ブリタニア人でなければ騎士にはなれないが、この男は日本の国籍を持ったまま騎士になった異例中の異例。ブリタニアが変わったとアピールするにはうってつけの人材だな」 その異例が起きたのは7年前。 人質である以上国籍を変える訳にはいかない。 だが、騎士にしなければ命も危ない。そんな事件が起きた。 そして皇帝は、苦肉の策としてスザクを日本人でありながら騎士とした。 「お兄様が7年前に拾った事が役に立ちますね」 「拾って後悔し続けていたが、ここで少しは役立つなら、俺も報われるな」 「案外、お兄様の数少ない功績となるかもしれませんよ」 「フン、そんなもの俺には不要だ。・・・いや、7年分の迷惑料ぐらい請求してもいいかもしれないな」 「まったく、貴方たちは・・・ジェレミア、これらの雑誌はナナリーの部屋に持って行って」 「ナナリー様の、でございますか」 傍に控えていたジェレミアは、今までの会話を蒼い顔をしながら聞いていた。あからさまに不要だという顔をするナナリーの部屋へ雑誌を持っていく？その意図が解らず困惑していると、マリアンヌが笑った。 「ナナリー、この二人が本当に利用できるのか分析しなさい。そして、どう使えばより効果的かを陛下に報告するのよ」 「わかりました、お母様」 にっこりと、愛らしい笑みを浮かべたナナリーだが、恐らくその胸の内にスザクに対する愛情など欠片もないのだろう。今までの会話、そして今までのスザクへの接し方でそれが痛いほどわかる。自分の姉とその騎士をどう使えばブリタニアの益となるのか。二人の意思など関係ない、ただの駒として扱おうとしている事がひしひしと伝わってくる。 急いで片付けろというマリアンヌの言葉に、ジェレミアとキューエル、ヴィレッタは手早く雑誌をかき集めた。 「もうここはいいわ。暫く親子三人だけで話をさせてもらえる？」 「イエス・ユアハイネス」 このあたりの警備は万全だ。 三人は騎士の礼を取った後、雑誌を手にこの場を立ち去った。 事件が起きたのは、スザクがユーフェミアの騎士となって3カ月が過ぎた頃だった。騎士を得たことで、ユーフェミアの安全が確保されたとし、彼女には外交官としての公務が多く割り振られるようになった。各国へ外交官として赴く事もあれば、国内の福祉施設を訪問したり、災害の被災地い慰問に訪れたりと、他の皇族ではイメージ的に問題のある場面では、彼女が必ず起用されるようになった。 それからはめまぐるしく日々は過ぎ、皇宮に戻ることが殆ど出来ず、移動ばかりの生活に疲れ果てても笑みを絶やさないユーフェミアの強さは眩しいほどで、彼女の親衛隊たちも寝る間を惜しんで彼女に尽くし続けていた。 そう、この時の僕らはユーフェミアの為にと休日もなく働き詰めて、溜まりすぎた疲労は全員の思考を鈍らせていた。 |